慰謝料請求権の保全手続はどのように行いますか。

慰謝料請求権の保全手続

 配偶者が不貞行為を行っているなどの場合、不法行為に基づく慰謝料請求を行うことができます。
 ただし、配偶者が任意に慰謝料を支払わない場合には、訴訟をして判決を得て、強制執行をしないと、慰謝料を取得することができません。
 また、訴訟の途中で配偶者が財産を隠してしまったり、使ったりしてしまって、いざ強制執行をした際には、財産はなかったという場合にも、慰謝料を取得することも出来なくなります。
 そこで、このような事態を防ぐべく、判決などを取得する前に、保全手続により、相手方の財産を保全することが考えられます。

人事訴訟法上の保全手続と民事保全法上の保全手続

 慰謝料請求権の保全手続としては、人事訴訟法上の保全処分と民事保全法上の保全処分があり、配偶者に対する保全処分の場合には、いずれの方法によることも可能です。実務上は、人事訴訟法上の保全処分を用いることが多いと言われています。
 不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権の保全手続としては、民事保全法上の保全処分によって行うことになります。
 人事訴訟法上の保全処分については、家庭裁判所に対して申し立てる必要があり、民事保全法上の保全処分については、地方裁判所に対して申し立てることになります。
 管轄が異なること以外、人事訴訟法上の保全手続と民事保全法上の保全手続に違いはありません。

管轄

 人事訴訟法上の保全手続の管轄は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所になります(人事訴訟法30条2項)。
 一方、民事保全法上の保全手続の管轄は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所になります(民事保全法12条)。

保全申立ての要件

 慰謝料請求権の保全手続を行う際には、仮差押命令の申立を行うことになりますが、保全命令が認められるためには、以下を疎明する必要があります。
 ① 本案認容の蓋然性
  →訴訟において慰謝料請求が認められる蓋然性があることです。
   したがって、不貞行為の存在などについて、資料などとともに疎明する必要があります。
 ② 保全の必要性があること
  →強制執行をすることができなくなるおそれがあること、または強制執行するのに著しい困難を生ずるおそれがあることを疎明する必要があります。
 疎明とは、裁判官が一応確からしいという程度の心証を得ることをいい、本案訴訟における証明よりは低い程度で足りると考えられています。
 なお、本案の係属は要件ではないため、離婚調停や離婚訴訟を提起する前でも、保全の申立てをすることは可能です。

保全の対象

 仮差押命令申立てにおいて仮差押の対象となるのは、通常、配偶者の不動産、預金などです。
 なお、配偶者の財産であればよく、共有財産である必要などはありません。
 不動産を仮差押えする場合には、対象不動産の所在地などが明らかになっていなければなりません。
 自宅などの場合には容易にわかりますが、それ以外の不動産などの場合には、把握できないこともありえます。
 預金を仮差押えする場合には、口座番号までは不要ですが、金融機関名と支店名が明らかになっていなければなりません。
 したがって、不動産や預金があるかもしれないが、どこにあるかわからないなどという場合には、仮差押えをすることはできないので、注意が必要です。

保全申立ての審理

 保全の審理手続は、通常、書面審理と債権者(申立てをした者)のみの審尋によって行われ、債務者には知られずに決定がなされるのが通常です。
 保全命令が発令される際には、裁判所から担保を求められます。
 担保は法務局に供託する方法によって行いますが、請求債権金額の20%から30%程度であることが多いといえます。
 保全命令が決定されると、債権の仮差押えの場合には、裁判所は決定書を第三債務者に送達し、その後第三債務者に送達します。
 不動産の仮差押えの場合には、裁判所は法務局に仮差押の登記の嘱託をし、その後第三債務者に決定書を送達します。
 具体的には、裁判所から第三債務者である金融機関などに対して決定書が送達されると、配偶者は預金の引き出しなどができなくなりますし、不動産の仮差押えの嘱託登記がなされると、不動産の移転ができなくなります。

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