面会交流が実施されない場合には、養育費を支払わないという合意ができますか。

原則として面会交流は実施すべき

 別居中や離婚後に子を監護していない親(非監護親)が子と面会交流することが、子の健全な発達にとって重要であることは、今では確立した考え方です。
 そして、最近の家庭裁判所の実務では、面会交流の実施自体が子の利益を害するといえる「面会交流を禁止・制限すべき特段の事情」が認められない限り、面会交流の円滑な実施に向けて調整をすすめることが基本方針とされています。

面会交流が実施されない場合も多い

 しかし、実際には、面会交流を認めない監護親が少なくないのも事実です。
 また、離婚が成立すると徐々に面会交流の頻度が減り、最後には面会交流ができなくなり、養育費を支払っているだけという場合もあります。
 面会交流は、日程や場所の調整、子どもへの働き掛けを監護親が行うことによって、スムーズに実施できるものです。
 そのため、監護親が非監護親に否定的な感情を持っている場合には、子どもがその監護親の気持ちを受けて、非監護親との面会を拒否することもあるのです。

面会交流と養育費の支払いは別のもの

 非監護親は、離婚後であっても子どもに対する扶養義務があり、その義務の履行として、子の監護に関する費用である養育費を支払う義務があります。
 そして、養育費の負担義務は、生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務) であると解されています。
 このように養育費支払い義務は、親の子に対する扶養義務であり、面会交流の実施とは直接関係していません。ですから、面会交流を行えば養育費を支払うとか、面会交流をしないので、決定した養育費の支払いをストップするということは、認められません。

面会交流が実現しなかった場合に、養育費の支払いを免除する調停条項

 しかし、大変珍しい事案ですが、家庭裁判所の調停で、父と長男との面会交流の詳細決めたうえで、「相手方(母)は、理由の如何を問わず、面会交流が実現できなかった場合には、申立人(父)に対し、面会交流が実現できなかった月における養育費の支払いを免除する。ただし、面会交流が実現できなかったことが、申立人の責めに帰する事情による場合はこの限りではない。」という調停条項を定めた例もあるのです。
 しかし、この条項は、福岡家裁平成26年12月4日審判によって、次のとおりに変更されました。
 「相手方(母)は、申立人(父)に対し、本審判の確定した月から事件本人が20歳に達する月までの毎月(別紙面会交流要領の1項ないし3項を全て満たす面会交流が実施された月を除く。)、その末日限り、2万円を支払え。」
 福岡家裁が、調停条項を上記のとおりに変更したのは、「養育費を受働債権として相殺することが禁止されていることや、扶養請求権を事前に放棄することはできないことから、面会交流が実施されなかった場合に養育費の支払義務を免除するという調停条項の定め方は相当でない」と判断したからです。
 しかし、上記の審判の条項は、面会交流が実施されない月には、監護親の母に非監護親の父に対し2万円の支払義務を負わせたもので、実質的には、面会交流の実施と養育費の支払いを関連づけたもので、非常に注目に値します。
 父と母が、子の利益のために養育費の支払と面会交流をいずれもきちんと実行することを合意している場合には、今後上記の審判等を参考にして、養育費の支払と面会交流の実施を関連づけることも考えられるでしょう。

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