合意した面会交流が実施されない場合に、監護親に損害賠償を請求できますか。

合意した面会交流が実施されない場合はかなりある

 別居中や離婚後に子を監護していない親(非監護親)が子と面会交流することが、子の健全な発達にとって重要であることは、今では確立した考え方です。
 そこで、当事者の合意や調停、審判で、面会交流の実施を決めることが、非常に多くなっています。
 しかし、残念なことですが、面会交流の実施を決めても、その後の監護親や子の環境や気持ちの変化で、面会交流が途絶えてしまうことは、少なくないのです。

合意した面会交流が実施されない場合の非監護親の取るべき手段

 調停、審判で決まった面会交流を、監護親が実施しない場合に、非監護親として取るべき法的手段には、以下のものがあります。
① 調停、審判で面会交流が決まった場合には、当該家庭裁判所に履行勧告の申立てをする
② 再度、面会交流の調停申立てをする
③ 調停、審判の内容によっては、間接強制の申立てをする
 このうち①は、家庭裁判所の書記官等が相手方に調停で決まった内容を履行するように勧告をするものですが、それでも監護親が面会交流を実施しない場合には、それ以上の強制力はありません。
 ②の再度の調停は、特に双方の親や子の環境が変化した場合には、面会交流の頻度や内容について、再度調停で協議をするもので、方法としては穏便で適切なものです。
 しかし、再度の調停でも監護親が理由をつけて面会交流を拒否する場合もかなりあります。
 ③の間接強制の申立ては、調停、審判で、面会交流の日時又は頻度、各面会交流時間の長さ、子の引渡し方法等、監護親がすべき給付の内容が特定されていなければならず、通常の調停、審判では、面会交流の柔軟性を考えて、そこまで具体的な内容を決めていないことが多いのです。

監護親に対する損害賠償請求を認容した判例

 離婚調停等で決まった面会交流を監護親が実行しない場合に、非監護親が監護親に対して損害賠償の請求をして、これが認められた判例もあります。
 横浜地裁平成21年7月8日判決は、面会交流の調停において、夫が長女と月1回以上面会交流をすることを認める合意が成立したのに、途中から妻が面会交流に応じなくなった事案について、監護親が調停において合意した面会交流を拒否したことについて正当な理由があったとはいえず、監護親は非監護親に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとして、70万円の慰藉料の支払を命じました。この判決は、高裁でも維持されています。

面会交流についてよく問題になる点

 この横浜地裁の判決には、面会交流についてよく問題になる点について示唆に富む判示がされていますので、紹介しておきます。

(1) 面会交流の場に監護親が立ち会うことについて

 子と非監護親との面会交流の場に監護親が立ち会うかどうかについて、争いになることがあります。
 この点について、本判決は、以下のように述べていますので、参考になると思います。
 「面接交渉の態様についても、面接交渉を行う親と子の関係に格別の問題がなく、また、面接交渉を行う親が子を連れ去ったりするなどの懸念がない場合には、面接交渉を求める側の親が子の監護をしている他の親の立会なしで子と2人で時間を過ごすという態様による面接交渉が一般的に行なわれて」いる。

(2) 子が面会交流について消極的意向を示したことの原因について

 子が面会交流について消極的、拒否的な意向を示すことが少なからずあります。
 その原因について、本判決は、以下のように述べています。
 「長女にとって最も重要でかつ密接な人間関係にある被告(妻)の感情や言動は、被告においてとくに意図しなくても、長女の心理に影響を及ぼすことが当然に考えられる。したがって、被告が本件合意の不履行に際して、長女に対して原告(夫)との面接交渉を中断することを説明したり、離婚判決確定後に、長女に本件合意が効力を失った旨説明した行動や、その他、原告から長女に送られてきたプレゼントを送り返したりするなどの行動を取った際に、長女に対して、被告の原告に対する嫌悪感、不信感及び原告が長女と交流することを快く思わない気持ちが、被告の言動から自然に長女に伝わり、長女は、それぞれの機会にわずかながらも忠誠心の葛藤を生じつつ、次第に、より自分にとって重要で密接な関係にある被告の感情への共感を強めていく過程をたどったものと考えられる。そして、面接交渉が中断されていたために原告と長女との間に十分な交流の機会が与えられなかったことにより、長女に原告に対する共感ないし配慮の心理を十分に形成する機会が与えられなかったことが相まって、長女の意識の中で原告の言動に対する否定的な側面が相対的に強化され、長女の面接交渉に対する消極的な意向を形成することとなったものと考えられる。
 したがって、長女が原告との面接交渉について消極的な意向を有するに至ったことについても、本件合意に係る面接交渉の不履行が一因となって生じた結果として、被告に、相応の責任があるというべきである。」
 この判旨は、是非監護親に理解してほしい点です。

(3) 面会交流が実現できないことによる非監護親の損害について

 面会交流が実現できないことによる非監護親の損失についても、本判決は的確に述べていますので、この判旨は、監護親、非監護親双方に理解してほしい点です。
 「原告は、被告の本件合意の不履行によって、平成17年✕月以降長期間にわたり、本件合意に基づく面接交渉の機会を失い、さらには、上記不履行が一因となって長女に原告との面接交渉に消極的な心理が形成されることによって当面面接交渉が困難な状態となる結果を生じさせることとなったものであるところ、このような事態により、原告は、幼少の年代における長女と交流することにより得られたはずの親としての心理的な満足を得る機会を失い、また、今後も当面は長女と面会して同様の心理的な満足を得ることができない状態となり、我が子に会いたいという思いを日々募らせているものと察することができる。このような損失及び心情を考慮すると、原告の被った精神的な損害は軽微なものとはいえない。 他方、面接交渉を円滑に継続するためには、監護親と非監護親との間の面接交渉の実施に向けての協力関係の形成、維持が不可欠であるところ、面接交渉の継続に負担を感じる状態になっていた被告に対して、原告が、繰り返し、面接交渉の頻度の増加や学校行事への参加を要求し、自らの権利の実現をはかったことが契機となって、被告の面接交渉拒否を招来した経過において、原告にも面接交渉を継続するための協力相手である被告に対して配慮不足であったことは否定できない。」

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