義務者の収入が全くない場合、養育費はどのように算定されますか。

もともと義務者に収入がない場合

 養育費は、権利者・義務者の収入を基礎として算定されます。
 したがって、義務者がもともと病気などで働くことができず収入が無い(収入ゼロ)という場合、原則として、養育費の支払義務はありません。
 しかしながら、義務者が働いて収入を得ることができるにもかかわらず、働かないために収入がないという場合には、潜在的稼働能力が存するとして、稼働能力に応じた収入を賃金センサス(厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査」)を用いる等して認定し、養育費の算定の基礎とされることがあります。

 なお、類似のケースとして、義務者が収入を明らかにしない場合がありますが、このようなケースは以下をご覧ください。
 「相手方が収入に関する資料を提出しない場合、養育費はどのように算定されますか。」

義務者が退職して無収入となった場合

 義務者が有職者で収入があったにもかかわらず、権利者が義務者に対して養育費の請求をしたところ、義務者が退職して低収入あるいは無収入になったという場合、退職後の収入を養育費の算定の基礎とすべきかどうかが問題になります。
 義務者が退職したという場合には、退職した経緯や退職後の状況に基づいて、稼働能力の有無や程度が判断されます。
具体的には、過去の経験や就業状況、健康状態、学歴、資格の有無、年齢、退職の経緯、再就職が困難な事情の有無などが判断の要素となります。
 これらの要素を総合勘案して、実際に病気などで稼働能力がないと判断されれば、収入がないものとして養育費が算定されます。
 一方、退職はしたものの、再就職が可能であり、特段問題ないということで、潜在的稼働能力が存すると認められる場合には、稼働能力に応じた収入を賃金センサスを用いる等して認定し、養育費の算定の基礎とされることになります。

この種の事例として、大阪高決平成22年3月3日があり、同決定は以下のように述べています。
「相手方は前件調停が成立してから×か月後に就職先を退職し、大学の研究生として勤務して収入を得る状況となっており、平成21年の収入は合計399万7890円となり、前件調停成立時に比して約3割減少していることを認めることができる。相手方は、退職の理由について、人事の都合でやむを得なかった旨主張するが、実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上、仮に退職がやむを得なかったとしても、その年齢、資格、経験等からみて、同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。そうすると、相手方が大学の研究生として勤務しているのは、自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり、その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。
 したがって、本件においては、相手方の転職による収入の減少は、前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更する事情の変更とは認められない。」

義務者が整理解雇されて無職となった場合

 義務者が、勤務先の業績悪化に伴い整理解雇されて無職になったという場合、退職がやむを得なかったとしても、通常、義務者には潜在的稼働能力を有するといえますので、退職前と同程度の収入を基礎とすることがあります。
 また、ケースによっては、稼働能力に応じた収入を賃金センサス(厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査」)を用いる等して認定し、養育費の算定の基礎とされることも考えられます。

義務者が養育費の支払を免れるために自主退職した場合

 (元)父母の対立が激しく、子どもを権利者に取られた義務者が、養育費の支払を免れようとして、給料差押を稼働能力があるにもかかわらず、故意に退職してしまうことがあります。
 こうした場合に、義務者が現在収入を得ていないことを前提に養育費の支払を免れることは相当ではないことから、義務者に潜在的稼働能力が存するとして、賃金センサスを用いた収入、あるいは、勤務を続けていれば得べかりし収入に基づいて、養育費が算定されることがあります。

病気等により就労不能との診断を受けて退職した場合

 義務者が、うつ病等により医師から就労不能状態の診断を受け、長期間にわたり復職が見込めないとして退職したような場合など、義務者に前職同様の収入確保が困難な事情がある場合には、現時点では義務者に潜在的稼働能力が存するとはいえないとして、無収入と認定されることがあります。
 もっとも、就労不能状態が一時的なものであって、近い将来に復職可能であるという場合には、潜在的稼働能力が存するとして、一定の収入が認定されることがあります。

賃金センサスについて

 賃金センサスは、厚生労働省より、毎年公表されており、以下からも確認することができます。
 賃金構造基本統計調査 結果の概要|厚生労働省
 賃金センサスは、性別、学歴別、企業規模別、産業別、雇用形態別などによって細かく分類されており、養育費の算定において用いる場合にも、当事者の属性を見て、最も当事者に近い数値を当てはめて計算することが一般的です。

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