婚姻費用の支払を拒否できる場合はありますか

 婚姻費用は、原則として、離婚時まで支払義務がある

 婚姻費用は、子供を含む夫婦の生活費です。
 夫婦は、互いに協力し扶助しなければならず(民法752条)、これは夫婦が別居した場合でも同様です。
 夫婦は別居後も互いに婚姻費用分担義務を免れるわけではなく、婚姻費用の分担義務者(基本的にはより多くの収入を得ている配偶者)は、自己の生活を保持するのと同程度の生活を権利者(基本的にはより少ない収入の配偶者)に保持させる義務(これを生活保持義務といいます)を負っています。
 そして、夫婦が別居し、婚姻関係が破綻していても、婚姻が継続している限り、婚姻費用の分担義務者はその負担を免れないというのが、ほぼ確立した判例、実務になっています。

 婚姻費用請求の調停では、原則として別居の有責性は考慮しない

 婚姻費用分担の調停では、原則として、夫と妻の収入に基づいて、養育費・婚姻費用の算定方式・算定表に従って、婚姻費用を算定します。
 算定方式・算定表は、令和元年に改定されていますので、裁判所のホームページで確認をしてください。
 このように、婚姻費用は、夫と妻の収入を基準に算定しますので、原則として、別居や婚姻破綻に至った責任は考慮しません。
 これは、別居原因の有責性を明らかにすることは難しく、これを明らかにしようとすると、権利者が必要な時期に必要な婚姻費用の分担を受けられなくなるからだと言われています。

 婚姻費用請求が権利濫用として認められない場合

 しかし、婚姻費用調停や審判でも、権利者である配偶者(典型的には妻)の不貞行為が原因で別居した場合には、妻の婚姻費用請求を権利濫用として認めないことがあります。
 ただし、この場合であっても子どもの分の婚姻費用請求は認められます。
 例えば、東京家裁平成20年7月31日審判は、「別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあって、申立人は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利濫用として許されず、ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。」と述べています。
 また、東京高裁平成31年1月31日決定は、妻が夫に婚姻費用を請求した事案について、別居と婚姻関係の深刻な悪化は、妻の長男と夫に対する暴力による妻の責任が大きく、別居後も妻は夫が住宅ローンの返済をしている家に居住しており、夫は長男と生活している住居の賃料や長男の学費、塾の費用等を負担していることから、妻が夫に婚姻費用の分担の請求をすることは、信義に反し、又権利の濫用として許されないと判示しました。
 このように、別居や婚姻破綻について有責な配偶者から婚姻費用分担を請求された場合には、調停で請求者が有責である旨の主張が通らない場合には、安易に調停で婚姻費用を決めないで、審判を求めることが大切です。

婚姻費用のその他の記事