子供から親の不貞行為の相手に対して慰謝料の請求をすることができますか

はじめに

ご質問のケースについての重要な判例(最判昭和54年3月30日)がありますので、ご紹介いたします。

最高裁判所判例の事案

 X1(妻)とA(夫)は、昭和22年7月に事実上の結婚をし、昭和23年7月に婚姻届出をしました。昭和23年8月に長女X2が、昭和33年9月に二女X3が、昭和39年4月に三女X4がそれぞれ生まれました。
 Yは、銀座のアルバイトサロンでホステスをしていましたが、昭和32年2月ころ、客として来店したAと親しくなり、数か月後に情交関係を持ちました。Yは、昭和35年11月にAとの間に女児Bをもうけ、自分で育てていました。Aは昭和39年4月にBを認知しました。
 X1は、昭和39年2月に、AとYとの関係やAとYの間にBが生まれていることを知り、Aを厳しく非難しました。AはX1の非難に嫌悪して、昭和39年6月に家を出て、昭和42年からはYと同棲しています。
 不法行為に基づき、Yに対して、X1は500万円、X2は200万円、X3とX4はそれぞれ100万円の慰謝料請求の本件訴訟を提起しました。

一審・控訴審の経緯

 一審はXに300万円、X2に30万円、X3及びX4に各50万円の慰謝料を認容しました。
 控訴審は、次のように述べて、X1X2X3X4の請求をすべて棄却しました。
「AとYとは、Aのさそいかけから自然の愛情によって情交関係が生じたものであり、Yが子供を生んだのは母親として当然のことであって、Aに妻子があるとの一事でこれらのことが違法であるとみることは相当ではなく、また、AとX1との婚姻生活は、X1がAとYとの関係を知り、Aが別居した昭和39年6月に破綻するに至ったものと認めるのが相当である。そして、この別居はAがX1に責められ愛情を全く喪失したため敢行されたものであって、YがAに同棲を求めたものではなく、Yに直接の責任があるということはできない。そしてAとYが同棲生活に入ったのは、前記認定のとおり、AとX1との婚姻生活が既に破綻した後であって、しかもAの方からYのもとに赴いたものであって、これをもってYに違法があるとすることはできない。
 また、AがYと同棲して以来子供であるX2らはAの愛ぶ養育を受けられなくなったわけであるが、これは一にAの不徳に帰することであって、Yに直接責任があるとすることはできない。」

最高裁判決

 一審と控訴審の判断が真逆であって、最高裁の判断が注目されるところでしたが、最高裁は、このように判示して、控訴審判決中X1に関する部分のみを破棄して、(X2X3X4に関する部分は維持して)原審(控訴審)に差し戻しました。
 「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」
「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が妻子のもとを去った右男性と同棲するに至った結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなったとしても、その女性が害意をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によって行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被ったとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。」

最高裁判決へのコメント

 (1) 未成年の子は、父と同棲している女性に対して、原則として不法行為に基づく慰謝料請求権がないと判断した最高裁判例として意義があります。
   なお、例外的に、その相手方が害意をもって親の子に対する監護等を積極的に阻止するなどの特段の事情がある場合には、子への不法行為が成立し得ると判断している点にも注意すべきであります。
 (2) 最高裁判決の多数意見は、その理由として、女性の行為と未成年者の不利益との間に相当因果関係がないとしていますが、両者の間には相当因果関係があり、未成年者は被った不利益は不法行為によって保護されるべき法益であるとの反対意見が付されていることにも注意すべきでしょう。

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