不貞行為の相手方に慰謝料の請求をすることができますか

不貞の相手に対する慰謝料請求

判例上「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両者の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務がある。」と解されており(最判昭和54年3月30日)、これが確立した判例法理となっています。
しかし、学説では、そもそも不貞の相手に対する慰謝料請求を認めないものもあります。特に、性に関する自己決定権を尊重する立場から、他人の性や人格を支配する権利は何人にもないから、自己決定として貞操を約束した者(夫や妻)に対して責任追及ができても、不貞行為の相手方に対してまで法的責任を追及することはできないとする説もあります。
また、相手方に害意や暴力など強い違法性がある場合だけ不法行為責任があるとする説もあります。
なお、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求の要件は、夫や妻と相手方との肉体関係が存在することですが、肉体関係を結んだとまでは認められないものの、夫との結婚を希望して妻に対して夫と結婚させてほしいと懇願し、その結果夫と妻は別居した事案について、妻から相手女性に対する慰謝料請求を認めた判決(東京地判平成17年11月15日)もあります。

婚姻破綻後の不貞行為

判例は、「甲の配偶者乙と第三者の丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情がない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙と乙が肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが、甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。」と判示しており(最判平成8年3月26日)、これも確立した判例法理となっています。
不貞行為の相手方に対する慰謝料請求の訴訟では、多くの場合、被告からこの婚姻破綻後の不貞行為である旨の抗弁が出されます。
しかし、実際には、不貞行為以前の婚姻破綻の抗弁が認められるケースは少ないと言えます。不貞行為以前に夫婦が別居(いわゆる家庭内別居の場合は、通常含まれない)していた場合でないと、この抗弁は認められないことが多いと言えます。

慰謝料の算定要素及び金額

主な不貞行為慰謝料の算定要素としては、不貞期間、不貞行為の態様、婚姻生活の状況(不貞行為によって婚姻破綻、離婚に至ったか否か)等が考慮されます。
不貞行為慰謝料の額は、500万円と比較的に高額のものもありますが(東京地判平成14年10月21日)、これは、相手の女性が夫との間の子を出産し、夫が妻との協議離婚届を無断で提出した上、相手女性との婚姻届を提出し、夫はその後無断で相手女性との協議離婚届を提出したという特別な事情がある事案であります。
特に、不貞行為によって婚姻関係が破綻していない事案の場合には、慰謝料額が低くなり、50万円とした判決もあります(東京地判平成4年12月10日)。
一般的には、不貞行為慰謝料についての判決は、そもそも慰謝料を認めない学説等を受けてやや低額化の傾向にあると言われています。

相手女性の責任と夫の責任の関係

夫と相手女性の不貞行為は、妻に対する共同不法行為であり、夫と相手女性の債務は、法律上の性質として、不真正連帯債務とされています。
したがって、この損害賠償債務には、連帯債務に関する民法437条は適用されず、夫への債務の免除は、相手女性の債務には影響しません(最判平成6年11月24日)。
妻が夫との離婚まで決意していない場合には、妻は相手の女性だけに対して慰謝料請求訴訟を提起することがあります。
相手女性が判決等によって、妻に対して慰謝料を支払った場合には、その相手女性は、自らが支払った慰謝料額のうち夫が実質的に負担すべき部分について、夫に対し、求償することができると考えられます。

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