財産分与が詐害行為になる場合はありますか。

詐害行為とは

 詐害行為とは、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為をいいます。
 このような法律行為を、債権者は取消すことができます(民法424条)。
 たとえば、債務者が債権者に対して借入金を返済できないのに、資産である不動産を廉価に第三者に売却してしまうなどといったことが典型例です。
 このような行為が行われると、債権者としては、不動産から借入金の弁済を受けることができなくなります。
 したがって、このような場合に、債務者が行った行為を取消すのが、詐害行為取消権です。

財産分与と詐害行為

 財産分与が債権者を害する目的で利用されることもありえます。
 たとえば、夫が多額の債務を負担しているという場合に、ほとんどの資産を妻に財産分与してしまうといった場合です。
 こういった場合に、財産分与も詐害行為取消権の対象になるのでしょうか。

特段の事情がある場合のみ詐害行為取消の対象になる

 財産分与が詐害行為取消権の対象になるかに関して、最判昭和58年12月19日は以下のように述べています。
「分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。」
 以上からすれば、詐害行為取消権の対象になるためには、単に財産分与において夫が債務超過であるというだけでは足りず、特段の事情が必要ということになります。
 なお、上記の判例の事案は、ほぼ唯一の資産である土地を財産分与したものでしたが、離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものとして、詐害行為取消権の対象にはならないと判断しました。
 一方、後述する最判平成12年3月9日は、夫が無資力であったところ、夫と妻は、他の債権者を害することを知りながら、夫が妻に対し、生活費補助としてYが再婚するまで毎月一〇万円を支払うという財産分与の合意をしたことについて、詐害行為取消権の対象になるとした原審の判断を是認しました。

全て取消されるか

 財産分与が詐害行為取消の対象になる場合、財産分与は全て取消されてしまうのでしょうか。
 この点に関し、最判平成12年3月9日は、以下のように述べています。
「離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきものと解するのが相当である。」
 以上のとおり、詐害行為取消権の対象になる場合でも、全てが取り消されるわけではなく、過大な部分のみが取消されることになります。

慰謝料の合意が詐害行為の対象になるか

 離婚時に財産分与と同時に慰謝料の合意がなされることがあります。
 この慰謝料の合意が過大な場合、詐害行為取消権の対象になるのでしょうか。
 この点に関し、最判平成12年3月9日は、以下のようにも述べています。
「当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。」
 以上からすれば、離婚時に夫婦間で定めた慰謝料が過大である場合には、慰謝料の合意が詐害行為取消権の対象になるといえます。
 そして、この場合も取消されるのは、慰謝料としての損害賠償債務の額を超えた部分ということになります。

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