財産分与請求権を保全するため、配偶者の債権を代位行使することはできますか。

債権者代位権とは

債権者代位権とは、債権者が、自己の債権を保全するために、債務者に属する権利を行使することをいいます(民法423条)。
たとえば、債権者が債務者に対して1000万円の債権を有しており、債務者も第三者に対して1000万円の債権を有しているものの、債務者は債権者に債務の弁済を行わず、なおかつ、第三者に対する債権についても回収しないというような場合に、債権者が、債務者に代わって、債務者の有する債権を行使すること、などが典型例です。

債権者代位と財産分与

財産分与においても、相手方に対して財産分与を請求できる場合に、この財産分与の権利を保全するために、債権者代位権を行使することが考えられます。
たとえば、妻が夫に対して財産分与を請求できる場合に、夫が第三者に対して有する債権を、夫に代わって取り立てる、などといった場合です。
このような債権者代位権行使ができるかどうかに関しては、財産分与請求権が具体的に形成されているのか否かによって考え方が異なるため、以下ではそれぞれについて解説します。

財産分与請求権が具体的に形成された後における債権者代位権

財産分与請求権が具体的に形成されているとは、離婚協議や離婚審判において、財産分与の内容が具体的に定められていることを指します(ざっくりいえば、離婚後ということもできます)。
このような場合には、財産分与請求権は具体的な権利として発生していますので、この権利を被保全権利として、債権者代位権を行使することが可能と考えられます。
たとえば、離婚において、妻の夫に対する財産分与請求権が認められたにもかかわらず、夫が財産分与を支払わない場合に、妻が夫の有する第三者への債権を、夫に代わって取り立てる、といったことも、認められるということになります。

財産分与請求権が具体的に形成される前における債権者代位権

財産分与請求権が具体的に形成されていないとは、まだ離婚係争中で、財産分与の内容が具体的に定められていないことを指します(ざっくりいえば、離婚前ということもできます)。
このような場合には、財産分与が具体的な権利としては発生していないため、債権者代位権を行使することはできないと考えられています(最判昭和55年7月11日)。
これは、離婚成立時において、財産分与が認められる可能性が高いといったケースにおいても同様であり、このようなケースでも、離婚成立までは、債権者代位権の行使はできないと考えられます。
したがって、たとえば、離婚係争中において、妻が夫に対して、将来発生する財産分与請求権を保全するために、夫の有する第三者への債権を夫に代わって取り立てようという場合には、債権者代位権の行使は認められないということになります。

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