弁護士
篠田 大地

「離婚訴訟における財産分与の審理・判断の在り方について(提言)」に関して

「離婚訴訟における財産分与の審理・判断の在り方について(提言)」

 「家庭の法と裁判」No.10に「離婚訴訟における財産分与の審理・判断の在り方について(提言)」という論稿がありました。
 これは、横浜家庭裁判所の裁判官が、財産分与の審理・判断の在り方に関して提言を行うものであり、興味深い意見が示されているため、以下において、概要をお伝えするとともに、当方のコメントを述べさせていただきます。

提言の概要

(1)原則的な財産分与の審理方式(訴訟類似方式)

現在の財産分与の原則的な審理方式は、訴訟類似方式とでもいう方法である。
これは、財産分与は夫婦の実質的共有財産の清算に重きがおかれ、財産紛争であることから、当事者の主張立証責任を重視して裁量的要素をできるだけ排した
訴訟的な審理のことをさす。

具体的には、以下のような審理方式である。

  1. 清算の対象となる夫婦の実質的共有財産を確定するための基準時を特定する。
    別居時が原則だが、特定することが困難な場合には、いずれが相当か主張整理を行う。
  2. 基準時における夫婦名義の財産をそれぞれ開示し、開示された財産分与対象財産の内容を一覧表に整理する。
    一方当事者から相手方名義の非開示の財産の存在や隠匿の可能性が主張される場合、裁判所は相手方に対して任意開示を求めたり、調査嘱託等にょり、対象財産を特定する。
  3. 特定された対象財産について、一方が特有財産部分の存在を主張する場合には、夫婦の実質的共有財産部分を確定するための整理を行う。
  4. 金銭評価が必要な財産(不動産、株式等)については、個々の財産の評価額について主張立証を行う。
  5. 夫婦の財産形成における貢献度を同等(2分の1ずつ)とすることについて争いがある場合には、「特段の事情」の存在を基礎づける事情について主張立証を行う。
  6. そのほかに財産分与の判断において考慮すべき事情があれば、その内容について主張立証を行う。
  7. 裁判所は、以上のような審理を行って、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他の一切の事情」を確定し、「財産分与をすべきか否か並びに分与の額及び方法」を検討する。

(2)訴訟類似方式による審理の問題点

 争点型の事件では、審理の硬直化・長期化が生じるおそれがある。

(3)バランス方式による審理

 財産分与対象財産及び貢献度を認定するための基礎事実の主張に争いのない事案では、訴訟類似方式でよいが、争点型の事案については、バランス方式での審理判断を行うべきである。
 以下がバランス型の具体的な審理方式である。

① 基準時に争いが存在する場合

【具体例】同居中の夫婦の離婚訴訟や単身赴任中に婚姻関係が破綻した場合、家庭内別居の場合。
【対応策】
・基準時に関する主張上の争いがある事案においても、これを実質的な争点とせずに主張整理を行う。
・裁判所が夫婦の協力関係が終了した時点と考える合理的な時点を基準時と定めてその時点における実質的共有財産を特定させる(いずれが相当か判断できないときは、より過去の時点を基準時とする)。
・そして、その前後の時点における特定の財産の変動が財産分与の判断において考慮すべき事情と認められる場合には、その変動事由の内容及びその原因を「一切の事情」として考慮する。

➁ 財産分与対象財産を確定しにくい場合

【具体例】当事者が基準時における自己名義の財産を任意に開示せず、調査嘱託に対しても同意書を提出しないことなどによって、対象財産を隠すような場合。
【対応策】
・財産分与を申し立てた当事者が他方当事者名義の特定の財産が存在することを立証したにもかかわらず、他方当事者がその内容を開示しようとしない場合には、裁判所としては、弁論の全趣旨によって、他方当事者が主張する合理的な額を対象財産と認定する方法も考えられる。
・他方当事者が対象財産はないと主張していたにもかかわらず、その後の調査嘱託によって多額の対象財産の存在が明らかとなったという事情や、他方当事者が他にも対象財産を隠匿していることが推認される場合には、隠匿していると認定できる額を財産分与対象財産として認定することも考えられる。また、そこまでの認定が困難であっても、夫婦間における信義則に反するものとして、「隠匿していると合理的に考えられるという事情」を「一切の事情」として考慮する。

③ 特有財産に関する争いがある場合

(ア)婚姻期間中に取得した自宅不動産について、取得費用の一部を親が支出していると主張される場合
【対応策】
・親の支出が認められる場合にも、夫婦の一方に対する贈与かどうかが問題となる場合もある。
 このような場合、一方に対する贈与とは認定できない事案では、夫婦双方に対する贈与とみて対象財産に含めるのが相当である。
・夫婦の一方が多額の拠出金を負担しているが、額を認定できない場合、「一切の事情」として考慮する。
(イ)婚姻時に有していた預貯金を、婚姻後の給与収入と一緒にしたなどと主張される場合
(ウ)婚姻時に有していた預貯金の一部を自宅不動産の取得費用の一部に充てたなどと主張される場合
【対応策】
・特有財産部分の立証ができない場合は、全体を実質的共有財産として取り扱う。
・ただし、婚姻期間が短期間であった場合や、婚姻時に有していた預貯金額よりもその後の生活費等のために支払った総額が著しく低額である場合、婚姻時に有していた特有財産の額が婚姻後に取得した財産の額に比して著しく高額であったというような事情が認められる場合には、「一切の事情」として考慮する。

④ 貢献度に関する争いがある場合

・貢献度の割合を変更するほどの「特段の事情」は認められないが、実質的共有財産の清算という観点で財産分与の額を修正することが当事者間の衡平に資すると認められる事情がある場合、「貢献度」とは別に「一切の事情」として考慮する。

コメント

 上記提言は、財産分与において紛争性が高い事案では、訴訟類似方式をとると紛争が長期化することが多いことから、財産分与事件では、様々な事情を「一切の事情」を考慮要素に取り入れることで、個別の立証を尽くさせるより、迅速に解決を図ろうというものと思われます。
 たしかに、実務上も、離婚事件では、離婚をするか否かといった判断よりも、争点となりやすいのは財産分与であり、また、審理に時間を要するのも財産分与の点である、といったことはよく見受けられます。
 一方、迅速に判断しようとする場合、犠牲になりうるのは、判断の適切さ、ひいては当事者の納得感です。
 上記提言では、「一切の事情」というのを広くとらえて、この中で実質的な妥当性を担保しようということのようですが、我々代理人の立場からしても、事前にどこまで「一切の事情」として考慮されるか、また、考慮される結果、どのような結論になるのか、事前に予測が立てづらいといえます。
 今後、上記提言に沿った運用がなされるか否かは不明ですが、上記提言に沿った運用がなされるような場合には、「どのような事情を考慮したのか」、そして「その事情があったことで、結論にどういう影響が出たのか」に関して、判旨において詳細な説明がなされることが期待されます。