離婚原因のうち「強度の精神病」とはなんですか。

「強度の精神病」

 法律上の離婚原因のひとつとして、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」が挙げられています(民法770条3号)。
 ここで、「精神病」とは、統合失調症、躁うつ病などを指し、アルコール中毒や認知症などは含まれないと考えられています。

離婚認容の基準

 民法770条2項では、法定の離婚原因がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚請求を棄却することができる、と定められています。
 「強度の精神病」の場合は、他の離婚原因と比較しても、離婚請求を受ける配偶者に責任があるわけではないため、この裁量棄却が認められる範囲が広いと考えられています。
 この点に関する判例として、以下の2つがあります。

最判昭和33年7月25日

最判昭和33年7月25日は以下のとおり述べています。
「民法は単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の訴訟を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである。」

最判昭和45年11月24日

最判昭和45年11月24日は以下のとおり述べています。
「Aは、婚姻当初から性格が変つていて異常の行動をし、人嫌いで近所の人ともつきあわず、被上告人の店の従業員とも打ちとけず、店の仕事に無関心で全く協力しなかつたのであり、そして、昭和三二年一二月二一日頃から上告人である実家の許に別居し、そこから入院したが、Aの実家は、被上告人が支出をしなければAの療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、被上告人は、Aのため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないにもかかわらず、Aの過去の療養費については、昭和四〇年四月五日上告人との間で、Aが発病した昭和三三年四月六日以降の入院料、治療費および雑費として金三〇万円を上告人に分割して支払う旨の示談をし、即日一五万円を支払い、残額をも昭和四一年一月末日までの間に約定どおり全額支払い、上告人においても異議なくこれを受領しており、その将来の療養費については、本訴が第二審に係属してから後裁判所の試みた和解において、自己の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明しており、被上告人とAの間の長女Bは被上告人が出生当時から引き続き養育していることは、原審の適法に確定したところである。そして、これら諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、右諸般の事情その他原審の認定した一切の事情を斟酌考慮しても、前示Aの病状にかかわらず、被上告人とAの婚姻の継続を相当と認める場合にはあたらないものというべきであるから、被上告人の民法七七〇条一項四号に基づく離婚の請求を認容した原判決は正当として是認することができる。」

2つの判例の理解

 最判昭和33年7月25日からして、「強度の精神病」がある場合において、離婚請求が認められるためには、単に「強度の精神病」があるというだけでは足りず、配偶者の今後の療養、生活等について具体的方途の見込(新たな保護者の存在や、生活費等の工面など)が必要といえます。
 また、最判昭和45年11月24日は、最判昭和33年7月25日よりも考慮する事情を広めに斟酌したと考えられており、過去の経緯等も離婚請求が認められる考慮事由になると考えられます。

精神病以外の病気などの場合

 精神病以外の重大な病気がある場合や、精神病が強度とは言えない場合であっても、これらにより婚姻生活が破たんしていると認められる場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、離婚が認められる場合があります。
 このような場合においても、「強度の精神病」の場合と同様、配偶者の今後の療養、生活等について具体的方途の見込(新たな保護者の存在や、生活費等の工面など)が必要と考えられています。

成年被後見人の場合

 配偶者が精神病のために成年被後見人になっている場合、成年後見人を被告として離婚訴訟を提起することになります(人事訴訟法14条1項)。
 成年後見人がもう一方の配偶者の場合には、成年後見監督人を被告として離婚訴訟を提起することになります(人事訴訟法14条2項)。

離婚原因のその他の記事