弁護士
本橋 美智子

ハーグ条約発効後の子連れ別居

平成26年4月からハーグ条約が発効

 国際結婚等が破綻した場合等において、子が国境を越えて不法に連れ去られた際に、子を迅速に常居所地に返還するための国際協力の仕組み等を定めた「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)は、平成26年4月1日から日本において発効しました。
 そして、ハーグ条約を日本において実施するために必要な規律を定めた「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(実施法)も同じ平成26年4月1日から施行されています。
 ハーグ条約は、令和2年4月1日現在、締約国が101か国となっています。
 そして、法務省、外務省の報告によると、平成30年度の裁判所に対する子の返還申立事件は、25件(子の数を基準としている)で、そのうち22件は子の父が申立人となっています。

日本人夫婦間の子の返還申立て

 ハーグ条約は、典型的には国際結婚の場合を対象としていますが、海外に住んでいる日本人夫婦の場合にも適用になります。
 典型的には、ハーグ条約の締約国(例えばアメリカ)で海外勤務をしていた日本人夫婦の妻が、夫に無断で子を連れて日本に帰国したような事案です。
 この場合には、夫が日本の家庭裁判所に、子の常居所地であるアメリカへの子の返還申立てをすると、返還拒否事由がないかぎり、アメリカへの子の返還が認められることになります。

日本国内の子の引渡し請求

 日本国内で、妻が夫の同意なく子を連れて別居(子連れ別居)をした場合には、これを違法とは認めないとの判例、実務があります。
 例えば、「子の主たる監護者であった母親が別居に当たって他方の親の同意なく子を連れ出したとしても、…これを一概に違法であるとすることはできない。」(松本哲弘氏)とする考えが一般的なのです。
 他方、ハーグ条約では、子の常居所地国の法令により、連れ去り又は留置が子の監護権の侵害となる場合に「不法」とされます。共同親権者の母が共同親権者の父の同意なく、子を外国に移動する行為は、日本の法令によっても、ハーグ条約の関係では不法と解されています。

子連れ別居の再考

 このように、子の移動が国際的か国内に止まるかで、子連れ別居が違法になるか否かが違ってくることには、疑問が生じるでしょう。
 ハーグ条約の発効を機に、このような国内の判例、実務が変わること期待した父親、実務家も少なくなかったと思いますが、現実には、ハーグ条約が国内の子連れ別居に影響を与えているとは言い難い状況です。
 しかし、審判前の保全処分の事案で、子の奪い合いにおける自力救済の抑止の必要性を強調し、両親の一方が他方の同意を得ずに子を連れ去った場合には、まず迅速な現状復帰(返還)を命ずることを大原則とし、原状復帰させた後にじっくりと子の福祉にかなう監護者は誰か等の本案判断をすべきであるとの決定もあります(東京高裁決定平成20年12月18日)。
 そして、この考え方は、まさにハーグ条約の考え方と類似しており、子連れ別居の場合に、まず審判前の保全処分を活用することは、よりすすめてよいと思います。

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