弁護士
本橋 美智子

「名ばかり共同親権」のおそれ

 法制審議会家族法制部会の中間試案たたき台

 法制審議会の諮問を受けて、法制審議会家族法制部会では、令和3年3月から、離婚及びこれに関連する制度の見直しの議論が行われています。
 そして、令和4年6月の会議では、「家族法制の見直しに関する中間試案のたたき台」(中間試案たたき台)が提出されました。

 父母の離婚後の共同親権

 中間試案たたき台では、父母が離婚するときはその一方を親権者と定めなければならないとする現行の民法819条を見直し、離婚後の父母双方を親権者とすることができるような規律を設けるとの甲案が提出されています。
 そして、現行の民法819条を維持して、父母の離婚の際には、父母の一方のみを親権者と定めなければならないとする乙案より、共同親権を認める甲案が有力だと思われます。
 そもそも法制審議会の家族法制部会への諮問は、「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方への多様化等の社会情勢に鑑み、子の利益の確保等の観点から、離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」というものであり、制度の見直しが前提となっているので、離婚後の親権者について、現行制度を維持する結論にはなりにくいと思います。
 また、法務省民事局は、父母の離婚後の子の養育に関する海外法制を調査し、令和2年4月にその報告を公表していますが、その結果によれば、離婚後の単独親権のみが認められているのは、調査24か国中、インドとトルコの2か国のみであり、離婚後の共同親権を認めない日本に対する海外からの批判もかなり強くなっているからでもあります。

 共同親権の場合の監護者の定め

 ところが、離婚後に父母の共同親権とする場合に、必ず監護者を定めなければならないとするA案が提示されており、この案が有力のようです。
 その理由としては、父母の共同親権を認めても、父母が子の共同監護をすることは現実的でなく、子の監護者は父母のいずれか一人に決めないと子の監護に支障が生じるというものでしょう。
 仮に、共同親権者父母、監護者母と定めた場合には、父が有する共同親権の内容は、子の財産管理権のみで、子の身上監護権は、監護者である母が有することになります。
 時代の変化から子の養育が多様化しており、離婚後の共同親権を求める強い要望は、離婚後も父母が子の養育に関与していくことであり、決して離婚後に子の財産管理権を取得したいからではないでしょう。
 それにも拘らず、離婚後共同親権を認めても、必ず父母の一方を監護者と決めなければならないとすると、共同親権の実は失われてしまうのです。
 たしかに、離婚後も父母が子を共同監護していくことはまだ少ないし、様々な困難が伴い、場合によっては子の利益に反する結果になるかもしれません。
 しかし、離婚後も協議して子の監護を分担できる父母もいるのです。
 このような父母から共同監護の道を閉ざすことがあってならないし、離婚後も子の共同監護をすることは、経済的にも身体的、精神的にもひとり親の負担を減らすことにもなるのです。
 ですから、離婚後共同親権を定める場合に、必ず監護者の定めをしなければならないとする案は、適切でないと思います。
 この案によれば、共同親権は、「名ばかり共同親権」になってしまうおそれがあるのです。

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